月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “水際にて”


小さいころに風呂とかプールとかで溺れたとか、
海で思わぬ波に突き飛ばされたとか、
川で足を取られてどれほどか流されたとか、
そういったおっかない覚えがあるでなし。
だから、水が怖いなんてことは全然ないんだけれど、
どういうものだか、小さいころからずっと何をどうしても泳げない。

細い子だから、体脂肪率が低すぎるのかも。

 何言ってんのまだ子供だよ?

不器用なのかなぁ?

 木登りも鉄棒もうんていも跳び箱も、
 学年で1番出来る子なんだぞ?

体力的なことじゃなくて、
そう…センスとか勘とかが鈍いとか。

 一瞬の判断が物を言う柔道で、
 勘がいい子だって褒められてるのにか?


  『う〜〜〜〜ん』 × @


これはもう天性の金づちとしか言いようがない、何だそりゃと、
彼を知る周囲の人々は こぞって“そういうものだ”と口を揃えておいでだし。
ルフィ本人も“何でだかそうらしい”と言って、
でも、さほど困りごとでもないというように、にひゃっと笑うものだから。
ここまで活発な子だからこそ信じ難いと疑われぬよう、
何より誤解されたままでは命にもかかわることだからと、
学校でも歴代の体育教師へ次々にその事実は申し送りされて来た、その反面。
家族やお仲間でプールや海へ遊びに行く計画には、
勿論のこと、彼もちゃんと誘っての一緒に出掛けるし。
特に海へと出向くおりは、
小さい子じゃねぇんだと本人が鬱陶しがってもそれだけは聞いてやらず、
必ず誰かが、視野の中に彼を置くポジションに居残っててくれて。
浅瀬や波打ち際で“水遊び”をするのの相手をしていたものだった。

 「しかも不思議とその役回りへは、
  毎年のように“立候補者”続出だったそうでな。」

至ってご陽気で活発な子だから、
若い娘さんたちが何の警戒もせずに
ビーチボールで遊ぼうだの、スイカ割りしようって寄って来る上、
世話係って兄さんへも警戒は薄いと来るらしくてな、と。
何かと恩恵が多いことを種明かし仕掛かった
サンジだったのへ やや先んじて、

 「??」

はい?と やや目を見張ってから、だが すぐさま、

 「手間が掛からなくて楽だからっしょ?
  それにあいつ、じゃねえ、先輩て面白いし。」

と、続けた剣豪青年だったものだから。

 「あ〜はん?」

立候補が何で出るのか、ではなく、
立候補が出るのが不思議と言ったのが不思議だ、という
一味違った応じを返す彼だった辺り。

 “ああこいつの場合は、
  シャンクスやエースと同じ立場から立候補してたクチだね。”

そうというのがすぐにも知れて。
こっちの口から出かかった“ぁあ〜?”が、
すぐにも“ああ・はいはい♪”へと繋がったそれになったほど。
溜息をついたつもりはなかったが、
カウンターの上に飾られた、
イルカやカモメが遊ぶモビールがゆらりと揺れて、
先月から南国ティストにコーデュネイトされたイートインの一角へ、
聞こえぬはずのさざ波を誘うよう。

八月も半ばとなれば、
全国的な一大行事として“お盆”というのがやってくるのに併走し、
大人の皆様もそれなりに、夏休みというのをまとめて構える。
流通関係の場合は、
昔ながらに節季や祭事を大事になさる、農家や漁師の方々が休まれるからと、
卸市場も連動して一斉に休むからであり。
製造業関係の場合も条件は似たようなもの。
遠い実家へ墓参りや法要にと帰る人も居ようから、
地域密着の小売店も、
住人の方々の大半が帰省するのに合わせて
それじゃあと休む店が多かったものだが、
こちらは、最近はそうでもなくなっていて。
何より、その“実家へ帰る”という感覚も徐々に薄れて来るものか、
そも、都会やベッドタウン生まれな世代の増加から、
バカンスのための期間という把握の方が
大きくなりつつあるのも否めないのだが、

 「この暑いのに理屈が回るお姉さんだねぇ。」

おおお、お姉さんと呼んでくれますか、サンジさんvv(喜)
ま、ごちゃごちゃした理屈はともかくとして。

 『ウチ(レッドクリフ)も直売所始まりの店舗で、
  ある意味“農家つながり”って関係から、
  近所の農家さんからの仕入れが出来んくなるからってことで、
  バイトと幹部の誰かに任せっ切りにして、
  お盆は毎年、海に出向くって訳よ。』

という美味しい話を、正社員のドライバーのおじさんたちから聞かされ、

 『ドライバーは特に、
  少しで十分 頭数足りちまうからよ。
  お前さんも一緒に海へ行って来るといい。』

そんな風に勧められての、
明日は出発という日の“上がり”の刻限に。
ご近所の輸入家具センターに勤める金髪の小粋なお兄さんが、
通用口で“おいでおいで”をしてのこと、
やはり上がりだったルフィ坊やと一緒に寄り道しないかと
誘ってくださってのこの流れ。
家具センターとはいえ、彼が担当しているのは喫茶コーナーで、
夏限定のマンゴーとパインのスムージーと、
ココナツソースのパンケーキをおごってやるとのお誘いに、
食いしん坊がまずはあっさり引っ掛かり、
こういうのも“友釣り”というものか、
しょうがないなぁと、
いかにも武骨な、後輩だがお兄さんなお友達も同行して来たのへと。
約束どおりのスィーツを出してやりつつ、

 『あ、そうだ。ルフィお前、水着の取り置きしてただろうよ。』
 『…っ。〜〜〜〜〜、※☆#々▼!!』
 『………食ってから喋れ。』

此処のレジャー用品の売り場に展開中の、
水着コーナーで気に入ったのがあったとか。
でもでも人気の商品なので、サイズの合うのは切れており、
お取り寄せ扱いになってたらしく。

 『預かってあるから、そこのバックヤードで試着してみ?』
 『いいのか♪』
 『ああ。』

下着だとお店によっては試着厳禁というところもあるだろが、
今回のは水着なんだし、
サイズがないからと取り寄せたのが やはり合わねば話にならぬ。
間に立ったサンジお兄さんの顔が利きもするのだろう、
とりあえず着てみなと勧められ、
わぁいと渡されたメーカーの手提げを手に控室へ入ってったの見送ってから。
時間つぶしのアテ代わり、
レッドクリフ恒例のお盆の海水浴にまつわる一連の事情説明とやらを、
何と今年初参加らしいゾロくんへ、話して聞かせていたサンジだったのだが、

 「じゃあ今年はお前さんが見張り役ってことになりそだな。」
 「そうすかね。」

ああ、回りもそうと言うだろし、
何よりルフィ本人もくっついて離れないんじゃねと、
からから明るく笑ってから、

 「もっとも、不本意だってんなら
  今のうちにでもベンさんか店長に連絡しときゃあ良いまでの話だが。」
 「……っ。」

何を勝手に揶揄されてるんだかと、
そこは多少ほど尖った目付きを仕掛かっていたはずが、
こうと提案した途端、
いやそのそこまでは…と、判りやすくしぼんでしまうところが憎めない。
年上の余裕で、
くくと小さく笑いつつも、それ以上の畳み掛けはやめておれば、

 「お〜い、着てみたぞ。」

そんなお声が背後からかかり、
こっちの返事も待たずにバタンと開いた木製のドア。
水着というより、水辺に最適な遊び着であったらしく、
それもセットだったらしい、
パイル地のパーカーを羽織ってのご登場と相成ったルフィさんだったのだが、

 「タンクトップが何か妙にぴったりしてんだよな、これ。」

動きやすいからいいけどと、
パーカーのアクセントカラーをそのまま使ったタンクトップとそれから、
ボトムはボクサーパンツ仕様の、短パン型といういで立ちになっての
堂々のご登場だったものの、

 「……。」
 「ここ最近はな、
  お目付役は虫が寄らないようにって係も担当してるらしいぜ?」

どう見たって女の子用だろう、シーサイド仕様のリゾート着。
だというに、笑える仮装には到底見えなく着こなしちゃっては、
そりゃあ身内は案じもしようて。

 「何でお前、足もそんなつるんつるんなんだよ。」
 「柔道ってのは あんまりガッツリ系の筋肉はつかねんだよ。」

というか、瞬発力勝負の坊ちゃんなので、そういう体型を保てておいでならしく。
どっかのまんがのヤワラちゃんではないけれど、
小兵がデカブツを蹴手繰ったり投げ飛ばす醍醐味を堪能出来る
これでも本格派として注目されておいでというから。

   世の中って判らない。(こらこら)

俺が言ってんのは毛の話だ、ガキだなまったく。
うっせぇなっ、最近はわざわざ処理とかしてる奴もいんだ、
手間が要らないでいいだろ、と。
最後は妙に今時の話を知ってた坊ちゃんだったが、

 「?? お〜い、ゾロ?」

カウンター前のスツールに腰掛けたまま、
何でか固まっていたお友達へ怪訝そうな声をかけ、

 「…変かな、これ。」
 「い、いいい、いやいや、似合ってるっす。」

きっと皆して褒めてくれますよと、
何だかよく判らない評をこぼした彼だったのに、

 「そっか、似合うか。///////」

パーカーの裾の紐、いじいじ指先でつまんでおいでの、
まんざらでもない坊ちゃんでもあり。

 “う〜ん、面白そうだから俺もついてきたくなっちゃうねぇvv”

前哨戦でこの甘さ。
どうかくれぐれも土用波を刺激はせぬよう、
無事に帰っておいでねと、
苦笑が止まらぬサンジさんだったようでございますvv


  
残暑お見舞い申し上げます




   〜Fine〜  2013.08.15.


  *いやはや連日暑いですよね。
   さすがは 100年に一度の酷暑。
   (誰が言い当てたんだ、責任者出て来い)
おいおい
   今年はもうもう諦めるとして、
   これが毎年のことにはなりませんようにと、
   ある意味 それはそれは前向きなもーりんでございます。


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

bbs-p.gif**


戻る